あの人は初めから誰よりも判っていたのだと。





Ruria-ju





監督が見に来ていた今日の練習は明日の休みと重なって、早めに切り上げられた。
部室で週末の練習試合の予定を確認していると、既に着替えを終えた鳳がロッカーから出て来て手招きをする。




「何だよ」

「いいからこっち来て」


鳳の言葉に眉を寄せつつ呼ばれた方へと近付いた。


「また何かくだらない事じゃないよな」
「凄くいいモノ」
「いいモノ?」


ゆっくりと西日の落ち始めた外に視線を移す。
色付いたプラタナスの葉が裏庭に続く路に敷き詰められる様に広がっていた。








「…何であんな所に」

「早く行ってあげないと風邪ひいちゃうかもね」

「…」

「後はやっておくから」


背中を押されロッカールームに入り、小さくため息をついた。
他人任せに出来ない自分の性格を鳳はいつもタイミング良く切り替えさせ、その度に部長としての適任は鳳なのでは無いかと思いが巡ってしまう。



練習メニューは明日の朝練の前に目を通すからと鳳に告げ、部誌と鍵を預けるとプラタナスの葉を踏み締め歩き出した。
窓から見た光景は更に朱色を濃くして辺りを包んでいる。
その中に余りにも無防備に目を閉じている人物に、ため息と共に零れる笑みをごまかす様に言葉を紡いだ。


「…先輩」

「…」

「風邪ひきますよ」


手元に開いたままの本に金色の葉が1枚。
久しぶりにコートに現れた3年生の中に姿を見付ける事は出来なかった。










(俺は今のポジション気に入ってるよ)


関東大会の前に準レギュラーへ落とされてから、全国大会のレギュラー決めの試合を辞退。
疑問をぶつけると、そんな答えが返ってきた。


(宍戸と試合してみて解ったんだ)

(何を…ですか…)

(自分に足りないもの)

(…)


陰を含んだまま、華やかな舞台に上がる事無く自分の新しい居場所を作り上げるのは決して容易では無い。
時間を共有してきた仲間はこの人の見えない努力と思いを大切にしている様に見えた。
それはすれ違う廊下や昼食の時間に強く感じるもので、時に自分との隔たりを作られている様にも思えてくる。




隣りに腰をおろし、落ちそうになっている本を取り上げ閉じる。
[英文解釈]と書かれた表紙に来年は身につまされる高等部への選抜試験を思い浮かべた。

そして次の春にはこうして近くにいる事を許され無くなる。





「今から勉強するつもり?」

「…起きたんですか」

「大分暗くなっちゃったな…」

「こんな所で待ってないでどうしてコートに…」


続きを遮る様に手から本が抜かれ、背伸びをする。











「明日休みだからウチ来る?」

「…」

「どうしたい?」

「別に…俺は…」

「俺は?」






「…行きます」







何で待っていたのか、そんな言葉を飲み込んで隣りを歩き出す。
多分理由など無い。
そしてこの人に惹かれている自分の気持ちにも、理由など見付ける事は出来ない。

この腕の中にその全てを抱きたいだけ。

今はまだ。











END

[DRAGON BLUE] 外村聖さまより


「外村さん…ひよたき書かれてみませんか…」
「あの実は…」

…という感じで頂戴してしまいました…!!
夢かと思いました…!びっくりしました…!!

たきこはあのレギュラー落ちの後、
すごくいろんな事を考えた…と思うんですね。
レギュラーのみんなの事とか、これからの自分とか…。
「今のポジション気に入ってるよ」
…っていう彼の言葉に嘘はないんだろうな…と思います。
ただ、ぽっかりあいちゃった、自分の中の喪失感は
なかなか簡単には埋められないんじゃないかな…って。
ひよがそこをこれから少しずつ埋めてくれるといいな…と思います。
日吉、がんばるんだよ…!!

レギュ落ちはたきこを語る時にははずせないんですが
自分だとなかなか消化出来なくて、
サイトさま回っててもあまり読めなくて…(辛くて)。
なのでこういう気持ちの滝もいたんだな…って、
すごく久しぶりに彼の心情を窺えてよかったです。
少し胸のつかえが取れた気分です。
外村さん、本当に有難うございました…!


[20050.7.20]