seven star





点滅から赤に変わった信号に足を止めた。
夕方から雨になった外気は冷え込みを増し、体から体温を奪って行く。
朝の寒稽古では感じない震えに両手をコートの中へ入れ、口元を覆うマフラーに息を出した。
やがて、車道側の信号が逆に赤へと変わり再び動き出す人波に足を踏み出した瞬間、掌に感じる振動。


『来週の出欠、返事来てないので至急連絡下さい』


鳳からのメールに出そうとしたまま部屋に置いたままの葉書の存在を思い出す。
忘れては鞄に入れ、気付けばそのまま書類の間に挟まれている間に期限を過ぎていたらしい。
遅れを取り戻す様に足早に歩きながら電話をつないだ。


『日吉?』
「悪い、出席にしておいてくれ」
『了解』
「じゃあ…」
『相変わらず用件だけなんだな、日吉は』
「地下鉄入るから」
『わかったよ、じゃあ当日』


通話を切った勢いのまま地下鉄の階段を降り、改札を抜けドアを開けている車両に滑り込む。
帰宅ラッシュを過ぎ幾分空いている車内を何気なく見渡すと、コートを着込んだ人達の中に今日が何の日か伝える箱を持つ姿が目立っていた。




(何か欲しい物、ある?)

(別に…無い、です)

(そっか…ならいいけど)

(…貴方はあるんですか?)

(俺は、無いよ)

(そうですか)





本当の心理を判らない程、短い時間を過ごしている訳では無い筈なのに。
何故。
お互いを理解する程に伝える言葉は少なくなるのだろう。
何故。
あるべき日常に当然だと感じる様になってしまったのだろう。
乗換駅のコンコースを歩きながら、出来たばかりの駅ビルから買い物袋を手に出てくる人達を見遣る。
そして、中へ入るために小さく息を吸い込んだ。








『若?』
「はい」
『鍵忘れたの?』
「いえ…」
『今開ける』


隔てたドアの向こうから聞こえて来る気配。
初めてこの部屋を訪れた時の様に鼓動が音を立てた。


「おかえり」
「…ただいま帰りました」
「その言い方って…」
「…」
「懐かしい、ね」
「…何笑ってるんですか」
「それよりさ」
「…」
「その大きい荷物は?」
「これは…」


被せられていた厚手のキルティングが、滝の手でゆっくりと持ち上げられる。
体を丸める姿とこちらに交代で向けられる視線。
床に下ろしたケージの中から小さな黒いそれを出して、広げられた両手に乗せた。


「これ、猫…?」
「他に何に見えるんですか」
「猫」
「…」
「小さい」
「…」
「でも、あったかい」


気配を感じたのか、耳を動かして猫が目を開く。
鞄から2冊の本を取り出して手渡した。


「…『子猫の飼い方』…『初めての躾』って…」
「俺は無理ですから」
「うわ、何、若が買って来たんだよ?」
「来たそうな顔してたんで、そいつ」
「…」
「だから、連れて来ました」
「だからって…それ…」


言いかけた言葉を遮り、猫が尻尾を震わせて鳴き声を上げる。
あまりにも無邪気な様子に言葉が繋がらず、やがてどちらからともなくその黒い毛並みに触れた。


「躾は俺がやるから名前は若がつけて」
「…そんな」
「俺には無理だから」
「…」







『北斗』と名付けられた子猫が自分の寝床を定める頃には、新しい年を2人で迎えているだろう。
欠けた月の隣りに輝く七つ星を見上げながら。
ただ、願うだけ。
この時間が続く事を。







merry christmas for you

END

[DRAGON BLUE] 外村聖さまより


外村さんから頂戴し続けているひよたきのお話、はや3作目となります…!
今回いただきましたこちらは…年齢層上げて考えていいのかな…。
もしそうでしたらすごくすご〜くどきどきします。(大好物なので…)
お話の中のどの要素も全部ミエノのツボを力一杯押して下さってます…;
にゃんこは、たきこ誕の時の絵チャで盛り上がっていたネタだったのですが
まさかそれで攻められるとは思いも依らず、またまた不意打ちです…。

二人がこのクリスマスまでに経てきた時間とか、その間に変化してきた気持ちとか
考えるといろんな感情が頭の中でぐるぐるします。
(つまりは妄想しすぎなのですが…)
判りあい過ぎる事で生まれた隙間に戸惑っても、二人の間には優しい気持ちが絶対にあって、
新しい家族を連れて帰った日吉も、あったかい…って言った滝も
全部優しい気持ちがあってこそなんですよね。

ひよ、名前つけるのすっごく悩んだだろうなぁ…って思います。
照れちゃってしょうがなさそうです。
そして絶対一度は頭の中を"萩"の字がよぎったことでしょう(笑)。

冬のこの時期にあったかいお話を有難うございました。
どこまでもトリップできそうです…///


[20050.12.6]